旅するまな板
日野伝統料理編

ひと昔前まで、近江日野周辺で普通に

使われていたちょっと変わったまな板を

復活させたくてトングウさんに作ってもらった新しい滋賀まな板。

かつて、この周辺の食材が切られた、

毎日の食卓のために使われた滋賀まな板。

 

生活の道具から、その土地土地の暮らし方が想像できます。

このまな板の不思議な形は、

川を敷地まで引き込みそこで調理を行った「かばた」由来説や、

おくどさん(かまど)の鍋に食材を

入れるために便利だった説など、

いろいろなお話を伺うきっかけとなりました。

そして、お母さんの味、昔の台所、家族、家、町、

冠婚葬祭の話などなどに発展していきます。

匂いが記憶を呼び起こすとは聞いたことがあるけれど、

それとは関係なく、お母さんが朝ごはん作っている音を

聞きながらこんなこと思ったなあ、とか、

あの夕飯を食べながらこんなこと話したよねえ、

と食と記憶って意外とつながっているのかも。

滋賀まな板で食にまつわるいろんなお話が聞けたら面白そう。

そうだ、まな板に旅をしてもらおう、と思ったのでした。

滋賀まな板のことが知りたくていろんな方に聞きまくっていた時、

「きり板(きりばん、きりいた)ね」と通称を教えてくださった

近江日野在住の奥井悦子さんに旅の始まりをお願いしました。

その名の通り、日野の伝統的なお料理や

食材を継承するために集まった

「日野の伝統料理を継承する会」は現在約16名の

メンバーで活動されています。盛り付けといいお味といい、

地域の素人さんとは思えないクオリティは、

テレビや新聞でも知られるところとなりました。

奥井さんもメンバーのおひとりで、「近江日野商人ふるさと館」

で開催される「まるで料理屋さん!」と評判のランチや、

町の食イベントなどを通して、若い世代にも日野や滋賀の

伝統料理を伝える活動をなさっています

 

滋賀県湖南市から近江日野に嫁がれた奥井さんは、

「日野祭のご馳走を作れるように」とお姑さんから

鯛そうめんや焼き豆腐の煮ものなどを教えていただいたそうです。

「日野の伝統料理を継承する会」主催のお料理教室では、

日野のお母さんのレシピを他所から来た私も教えていただき、

我が家へ遠くから遊びに来てくれる友達への

定番料理となっています。近江日野の、滋賀のお料理が、

町外、県外、子どもたちにも伝播すると嬉しいです。

今日のメニューは、

なすの煮浸し、丁子麩のからし酢味噌和え、

プチトマトのマリネ、そうめんかぼちゃの黒ごま和え、

梅の炊き込みご飯、冷汁。

どれもこれも丁寧で優しいお味。

とっても美味しくいただきました。役得な滋賀まな板の旅です。

 

旅するまな板。旅は続きます。

「とんとん、ってこの音が気持ちいい」と奥井さん。
季節の野菜たちも心地よさそうです。

「ゆりちゃん効果で『日野の伝統料理を継承する会』
が有名になりました」。日野町の地域おこし協力隊として
食関連中心の活動をされている鵜瀬ゆりさんと。

 

photo: Yoshinori Yamazaki